2021年3月11日木曜日

ケースかレクチャーか

観光ブログの合間ですが、マジメな記事を1つはさみたいと思います。タイトルのとおり、ケース(ハーバード等のケーススタディーを予習して、教授が生徒の発言を引き出しながら、見事に議論をリードしていく授業)と非ケースのどちらが良いかという話題です。おそらく、ケースのほうがthe MBAっていう感じで受験生をひきつける魅力はあるのかなとは思います。

Tuckに関してはコア科目ではケースは半々の印象。半々といっても授業毎に程度のバラつきがあり、たとえばストラテジーのクラスはほぼケースですし、Capital Marketsという授業はほぼレクチャーです。選択科目でも同じことがいえ、ケースばかりの授業もあれば、ケースを意識的に全く採用していない授業(Advanced corporate governance and finance, The Arrhythmia of Finance等)もあります。

そして結論は、人によると思います。が、私の個人的な意見をご参考までに述べたいと思います。

 

●使える記憶として残るか残らないか

たとえ素晴らしいことを学んだとしても、使えなければ意味がありません。この点では、ケースが一枚上でしょう。2年間で合計・・・いくつのケースを学んだか定かではありませんが(100200くらいかな?)、ケースは1つ1つ物語として記憶されているので、タイトルを聞けば、そのケースのキーテイクアウェイ(+時々苦しい思い出のオマケ付き)は記憶としてよみがえってきます。なので、今後のキャリアにおいて何か困難に直面したとき、少し思案すれば、「あ、あのケースなんか関連があったな。ちょっと振り返ってみようか」と思えるような気がします(実際に、自分がそんな行動をするのかは卒業していないのでわかりませんが)。

非ケースの場合は、衝撃があった学びや、繰り返し学んだ概念は記憶に残りますが、「なるほどねー」程度の1回だけ学んだことは、記憶から抜け落ちるリスクがあると思われます。最近、過去の教材整理をしながら、「あぁ確かにこんなこと習ったっけね」と思い出した時に、記憶のかなたに飛んで行ったものがあることを認識しました。

 

●ケースは情報が不完全なのが良い

ケースで与えられる情報は不完全です。ミクロ経済やマクロ経済、ファイナンスの授業のケースでも、答えを出すのに理論上必要なデータが全て与えられることは稀です。なので、仕方がないので、それに近しい数字を何とか拾ったり、エイヤで数字を仮置きしたりします。几帳面(?)な性格の私としては、かなり気持ち悪さを感じるのですが、当然リアルビジネスは情報が不完全なわけです。

で、そのような不完全な情報の中で、自分の仮置きがいかに正しいかとか、Sensitivity analysisとかを披露したりして、人を説得すると、そういうことを学べます。必要な情報が全て与えられてしまったら、答えがあっているか、間違っているかになっちゃいますよね。

 

●ケースのデメリットはコジツケ感

多くの人が認めるケースの最大の欠点だと思います。つまり、ケースは1つのストーリーでしかないし、単純化されすぎているということです。そのまま適用できることがマレなことは勿論、そのストーリーからの学び自体が本当に正しいのか(例:勝手に後付け解釈をしているだけではないか)も注意が必要です。

ケースは帰納法的ともいえるかもしれません。Aという1つの企業に焦点を当てて、様々なAの特徴を導き出して(BtoCだ、Conservativeな業界だ、競合は多い、レバレッジが高いなど)、その特徴を結び付けて、応用可能な法則を見出そうとするものです。でもそのやり方はやはり後付け解釈的な限界があります(雑な例ですが、BtoCの企業はレバレッジを高くすれば成功する的な)。それなら、非ケースの演繹法的なアプローチの方が、効率的に信頼できる法則を学ぶことができるんじゃないかと。この点は、前述のThe Arrhythmia of Finance(人間の認識や判断の落とし穴を学ぶ授業)やMSQM(いわゆるSTEM)の授業を取り始めてから、より強く感じるようになりました。

 

ケースか非ケースかと関係ないこともあります。たとえば「ディスカッションを通じて、様々なバックグラウンドのクラスメートの経験を学べるのがケースのメリット」という風な言い方を耳にすることがあります。しかし、それはレクチャー形式の授業でもTuckでは(たぶん他校でもそうです)起こることです。

たとえば選択科目のTax and business strategies7割レクチャー・3割ケースの授業ですが、レクチャーで税金スキームの解説を教授が進める中で、生徒が挙手して「そのスキームなら、前の金融機関にいた時に結構活用したよ。相手が税金理解してなかったから、こっちで黙って結構儲けさせてもらっちゃったわ(笑)」みたいな話があったり、Tech企業への課税というテーマの中で、会計監査人として関与したエピソードが披露されたり。他の学生からの学びは、この授業が一番大きかったように私は感じました。

なので、これはケースかレクチャーかの違いではなく、教授がinteractiveな議論が好きか、コールドコールも含めて幅広い意見を取り入れようとしているか、生徒が積極的に発言したがるか、の問題ではないかと思います。

 

結論として、私はケースで学ぶべきものはケースで学ぶのがいいし、非ケースで学ぶのが効率的なものも多くあると思います。Tuckの使い分けはその点、非常に合理的といえると思います。

以上です。以下は余談です。

 

・ケースを学ぶと、アメリカの会社を知れるのが面白い。うちの食洗器Whirlpool製じゃん!とか。コーヒーメーカーはBlack & Deckerじゃんとか、Southwest航空ってこんな感じなんだ・・・とか。

・ケースの登場人物の名前が苦手ですね。5人くらい出てくると、もう誰が誰かわからない。しかも一人の人物が違う呼び方で出てくることも多々あるので(チョッパー、トニー、トナカイ、ドクターみたいな感じで)、もうわけがわからない。人物相関図を最初に書いてほしい。

・その代わり、ケースの最初の「ビルはお気に入りのマフラーを首に、いつも通りの散歩コースを、雪を一歩一歩踏みしめながら歩いた。そして・・・」みたいな部分はいらない。

20ページのケースか・・・と絶望した時に、Exhibit12ページくらいあるとめっちゃテンションが上がる。